田中パン店は、この町に進出してきた大手パン屋さんチェーンとくらべて「ヒト、モノ、カネ、情報、ノウハウ」などの経営資源が不足していました。田中パン店が「大手パン屋さんチェーンと同じ方法」で「大手パン屋さんチェーンと同じ価値」を提供することで対抗して、利益をうみだすことは困難です。
田中パン店には、お店がひとつしかありません。にぎやかな都市部や駅前に移転しようと思っても、たくさんのおカネが必要です。原材料の購買量は大手パン屋さんチェーンと比較してとても少ないので、仕入価格もなかなか安くしてもらうことができません。お店で働くのも、田中さんをはじめ、かぎられた人数でみなさんがんばっています。
ここでは、まず内部環境に着目しましょう。どのような企業でも、経営資源はかぎられています。とくに中小企業では、相対的に経営資源が不足している場合が多いようです。田中パン店は、そのかぎられた経営資源で利益をうみださなければなりません。
つぎに、外部環境です。田中パン店がある町では、あらたなパン屋さんが続々と出店して、小さなパン屋さんが10店になりました。そして、この大手パン屋さんチェーンの進出がありました。パン屋さんのほかにも、パンの販売もしているコンビニエンスストアやスーパーマーケットがあるかもしれませんね。
田中パン店は、大手パン屋さんチェーンやほかのパン屋さんと同じ土俵で勝負する必要はありません。相撲にたとえると、田中パン店は、大手パン屋さんチェーンのように、大きなからだのちからもちではありません。ほかのパン屋さんとも得意な「ワザ」が異なります(経営資源)。同じ土俵で勝負をすると、はねとばされてしまいそうです。
そこで、田中パン店は自分のお店にとって都合のよい土俵で戦います。大手パン屋さんチェーンやほかのパン屋さんとは異なる土俵を選択して、そこで勝負するのです(ポジショニング)。一般的に、選択したその土俵にいる競合が少ないほど、戦いやすいのではないでしょうか。そして、競合がその土俵を選択するために必要な経営資源を入手することが困難であれば、田中パン店にとって有利になります。
もちろん、経営は相撲と違いますが、同じ土俵にたくさんの競合が存在していると、そこで利益をうみだすことが難しくなってしまいます。いよいよ「経営戦略」の登場です。利益がうみだせるように「他社と異なる方法で、他社と異なる価値をつくるための作戦」です。
経済学者のシュンペーター(Joseph A. Schumpeter)さんは、「イノベーション」について、「新結合」という言葉をつかって説明しています(Wikipedia「イノベーション」)。「つくりかた」や「売りかた」はもちろん、「利益をうみだすための『しくみ』」が、大手パン屋さんチェーンやほかのパン屋さんと同じである必要はありません。選択するポジションや保有する経営資源などにより、田中パン店にとって都合のよい「つくりかた」や「売りかた」などの要素を「あらたに結合(新結合)」して、利益がうみだせるような「作戦」を考えるのです。
それは、「他社と異なる方法で、他社と異なる価値をつくるための作戦」です。この「作戦」が「経営戦略」です。
提携中小企業診断士 岩田 岳
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