「ドメインの決定(だれに?)」では、「顧客(標的顧客)」について考えました。「だれがターゲットであるのか」ということを特定するとともに、「だれがターゲットではないのか」ということを明確にすることが重要でした(part9「ドメインの決定(だれに?)」)。
また、「ドメインの決定(なにを?)」では、「機能(顧客機能)」について考えました。「なにが提供したい価値であるのか」ということを特定するとともに、「なにが提供したい価値ではないのか」ということを明確にしましたね(part10「ドメインの決定(なにを?)」)。
ある日、田中さんは、はじめてこのお店のカレーライスを食べたというお客さんとお話をしていました。そのお客さんはマスコミ業界でお仕事をしている人だそうです。そしてお客さんは、「田中パン店のおいしいカレーライスをテレビ番組で紹介させてください!」といいました。
そのテレビ番組は日本全国で放送されます。有名なお笑い芸人さんが、いろいろなお店の料理を紹介するテレビ番組で、おいしい料理がだいすきなわかい人を中心にとても人気がある番組だそうです。そして、テレビ番組の放送後には、たくさんのお客さんがカレーライスを食べにきてくれることでしょう。
しかし、「おいしいカレーライス」を食べにあらたなお客さんが日本全国からたくさんくると、田中パン店は、現在のお客さんである「この町に住むお年寄り」が「たのしくお話やお食事ができる場所」ではなくなってしまうかもしれません。また、あらたなお客さんがたくさんきてくれるのは、とてもみじかい期間かもしれません。
田中さんは、せっかくのお話でしたが、このような心配があったためにテレビ番組への出演をことわってしまいました。もちろん、これは「テレビ番組への出演がよくないのだ!」というお話ではありません。プロモーション(販売促進)の手段として、経営者である田中さんが選択した意思決定のお話です。
最近は、レストランなどで禁煙のお店を多くみかけます。喫煙室などタバコをたのしむための場所を設置しているお店もありますが、完全に禁煙にしているお店も多いようですね。
レストランのおいしい料理の「香り」をお客さんにたのしんでもらうことで快適な空間を演出することが、お店の提供したい「機能(顧客機能)」の一部であれば、お店にとってタバコのにおいは「ジャマ」になります。この場合、喫煙者はそのお店の「顧客(標的顧客)」ではありません。
お店が「だれがターゲットではないのか」ということを明確にすることで、「顧客(標的顧客)」は自分にとっても「ジャマ」であるタバコのにおいがしないお店を選択することができます。
田中パン店にとっても、たくさんのお客さんがきてくれるのはとてもうれしいことです。しかし、わかい人を中心に「カレーライス」だけを食べるお客さんでお店が忙しくなると、「この町に住むお年寄りに」とってはお店の魅力がうすれてしまうかもしれません。つまり、田中パン店の「顧客(標的顧客)」である「この町に住むお年寄り」が「たのしくお話やお食事ができる場所」ではなくなってしまうかもしれません。
ドメインを再定義して、「おいしい料理がだいすきな日本全国のわかい人」をターゲットにすることもできそうですが、テレビ番組出演の効果を予測することができない田中さんは現在のドメインを優先しました。
みなさんの会社(事務所、お店など)で付加価値の高い商品やサービスを販売している場合、とにかく安い価格での購入を重要視するお客さんはターゲットではないかもしれません。この場合、「安い価格での購入を重要視するお客さん」をターゲットとしたプロモーション(販売促進)の手段は選択しないのではないでしょうか。みなさんの会社(事務所、お店など)が提供している商品やサービスについて、その「機能(顧客機能)」の価値を十分に理解することができるお客さんがターゲットになりそうですよね。
とくに飲食店などでは、テレビ番組で紹介されることが「必ずしもよいことではない」という場面があるかもしれないですね。
提携中小企業診断士 岩田 岳
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